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 外国育ちで日本語が下手くそなものだから、光司の言葉はいつだって単純で、自分から伸し掛かてきたくせにとか、まだ俺は好きとも嫌いとも言ってない、とか、そういう思いはどこかに行ってしまった。出会ったときには多分もう光司のことが好きだった。光司に襲われたまま素っ裸で抱きしめられて、舌を入れるキスをすることも、体を触られたり触ったりすることも、セックスも、全部光司が強引にしてきたのに、ぜんぜん嫌じゃなかったのが不思議だった。 「ケーキ、冷蔵庫で解凍しよう。いま入れたら夜には食べられるでしょ」  光司と同じ顔をした睦月が言う。 「うん……いや、でも俺いま絞ってるし」 「一切れくらいどうってことないじゃん? がんばってるご褒美ご褒美」  ケーキを冷蔵庫に入れながら睦月は言って、通りすがりに友宏の頭を撫でた。  その手つきの雑さが、光司と同じだった。  顔だけはそっくりに思えても、睦月と光司は性格も体格も全然違う。手の大きさだって全然違う。  それなのに、あまりにも同じ感覚だった。  きっと光司も同じことを言った。 「顔色、ちょっと戻ったね。よかった」  睦月が表情を変えずに言う。 「お誕生日おめでとう」  睦月のぼんやりしているような声に、ありがとうと言うことができなかった。 ※  ある日金髪になって帰ってきた友宏は、おもむろに睦月に封筒を渡した。 「チケット。社長が渡しとけって」 「ありがとう……金髪?」 「役の関係で舞台終わるまでな」  封筒の中身を見ると二枚入っていた。 「それ招待チケットだから劇場入る時入り口注意して。なんか一般席取れなかったみたいでさ、関係者席しか用意できなかったって。たぶん二階席のセンブロ最前だからめっちゃ見えるはず」     
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