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「これ最後のやつ?」 「千秋楽。誰か友達誘っていいって社長言ってたぞ」  金髪になった友宏は、いつも通り丁寧にうがいをして手を洗ってからきた。睦月は思わず友宏の顔をじっと見て呟く。 「金髪似合うねえ。怖くてかっこいい」 「どうも。怖い?」 「なんかカツアゲとかしそう」 「ま、悪い役だし。あ、これチラシ」  食堂の椅子に置きっ放しにしていたリュックをごそごそやって、友宏はテーブルに二枚チラシを置いた。イケメンが全員黒いスーツを着ていて、友宏は長い金髪に赤い口紅をしている。 「女の人の役なの?」 「女装もする男の役。だから体重落として細くしてたの」  ふうん、とチラシと友宏を見比べて、なんだか全然別の人を見ている気分になった。俳優ってすごい。  チケットの日付は五月七日だった。睦月は高校時代の友達を何人か思い浮かべて、スマホを手に取った。 ※  高校のクラスメイトだったマミはチケットを見て死ぬほど驚いた。 「ちょっと! これ! 私十人に頼んで全落ちしたのに! ぜんっぜんとれなかったのに! 当日券並ぼうと思ってたのに!」 「え? そうなの?」 「これめっちゃチケット戦争してたやつだよ、どうしたの」 「貰った。一緒に行ってくれると助かるんだけど」     
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