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 速風光司は、もういない。 「まあ、うちに来たら普通にいるし。今度遊びに来る?」 「無理無理やめて会ったら心臓止まっちゃう絶対無理」  なんとなく暗い雰囲気になってしまったので言うと、マミは慌てて首を振った。 「心臓は止まらないでしょ、おれ一緒に暮らしてるけど生きてるし」  マミの様子が面白くて、ちょっと気が楽になった。 「ねえ、友宏のブログおしえて」  言うと、マミは喜んで教えてくれた。ブログの写真を漁ると、友宏がどんどん痛々しく痩せていくのがわかりやすく目に入った。二ヶ月前までの写真では、友宏は笑っていた。幸福そうに。忙しいのが楽しくて仕方がない、という風に。 「友宏の舞台、早く見たいね」  こんなにも無理を重ねて、心も体も振り絞って舞台に立つ友宏の仕事を、早く見たいと思った。睦月が知らない期待の若手俳優、狭間友宏を。 「狭間くんはすごいんだよ。めっちゃくちゃかっこいいの」  マミが祈るみたいに手を組んで言う。家にいる友宏は普通の男子なのでわからないが、めっちゃくちゃかっこいいのはきっと本当だ。  早く舞台の最終日が来たらいい。  そうしたら友宏も、心はどうしようもなくても、体は楽になるはずだ。     
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