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 光司はもういないけれど、少しでも友宏が楽になればいいと思った。友宏の頑張りを止める気は無いし、睦月はなにを言うこともできないけれど、家で待っているくらいはしていたかった。光司と似た顔の睦月が家にいることは、もしかしたら友宏の負担になっているのかもしれなくても。  今日もきっと、友宏は疲れきって帰ってくる。  稽古場でシャワーを浴びて来るかもしれないけれど、お風呂を溜めておいてやろう。シーツも枕カバーも洗ってあるものに変えておこう。友宏が、少しでもゆっくり休むことができるように。  それが、光司ではない睦月にできることだ。 ※  友宏の舞台の日、マミと待ち合わせて劇場に行くと女の子がうじゃうじゃいて驚いた。 「あれねぇ、だいたい俳優さんのファンだよ。私プレゼントボックスにお手紙入れてくる」  マミは慣れた様子で人混みを縫って進み、ロビーに設置された箱に手紙を投函した。箱には『狭間友宏宛』と書かれていた。 「おれ家で渡せるよ?」 「そういうのダメでしょ……睦月はよくても私は狭間くんの友達じゃないし。ねえ、これ招待券だし一般の方に行ったらまずくない?」 「あ、そういや違うって言ってた」 「あ、こっちだ。ついてきて」     
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