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 生まれて初めて見るミュージカルは、睦月にとって大変なものだった。爆音で流れる音楽に合わせて美形ぞろいの俳優たちが現れたのにまず驚いて、そこに友宏を見つけてもっと驚いた。  真っ黒なロングコートを羽織って出てきた友宏は、金髪のゆるふわロングヘアになっていた。胸は短いタンクトップみたいなのでかろうじて隠れているけれど、引き締まったお腹は丸出しだ。腹筋がバキバキに見えるのに腰が女の人みたいに細い。トランクスの方がまだましなんじゃないかってくらい短いレザーパンツにガーターベルトをして、ハイヒールのロングブーツで颯爽と歩く姿がセクシーだった。顔を見ると真っ赤な口紅をしていた。黒いスーツを着た背の高い俳優二人の間で踊る友宏はどこからどう見ても女の人で、惜しげも無くさらけ出している太腿や脇腹が妙に艶かしくて、家で見る姿と全然違ってどきどきした。  舞台の背面スクリーンに大きく『狭間友宏』という文字が映されて、文字が消えたと思ったら入れ替わりに『ダイアナ=ディアン』と映し出された。たぶん役名だろう。舞台の真ん中で友宏扮する金髪の女が客席にウィンクしながら投げキッスを飛ばし、それがまだオープニングだったと気付いた時には、睦月はもうミュージカルに引きずり込まれていた。  友宏は凄かった。     
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