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 ミュージカルは怪盗もので、お調子者の主人公がお宝を得るのに奔走するコメディだった。友宏扮する金髪の女ダイアナは、常に主人公の近くにいて舞台を引っ掻き回した。  主役の怪盗の男たちを手のひらで転がすセクシーな女。警官の服を着て主人公を威嚇するクールな女。かと思えば別の場面では真っ赤なドレスで主人公を誘惑する。金髪の謎の女は警官なのか怪盗なのか、もしかしてスパイなのか。主人公の敵なのか味方なのか。はっとするほど色っぽい仕草で主人公を誑かしたと思ったら、コミカルなシーンでは笑っちゃうくらい可愛らしくおどけて見せた。主人公に追われて一階席に逃げ込み観客を巻き込んで庇わせる。主人公の仲間を誘惑して妖艶に笑う。ピンクの照明が照らすセクシーなシーンでは色っぽいダンスで腰をくねらせ主人公に絡み、主人公がせっかく手に入れたお宝を奪って逃げて高笑いした。舞台後半の十数人が入り乱れるガンアクションシーンでは黒いコートの裾と長い金髪が翻って、ダイアナが動くたびに視線を奪われた。友宏は間違いなく男のはずなのに、ソロで数曲歌った声はハスキーな女の声にしか聞こえなかった。  そして、ラスト直前。 「ああ、もうやってらんねぇ、女のままでも逃げられると思ったんだがなぁ!」  主人公が警官に撃たれ、自分も裏切りがバレてピンチに追い込まれたダイアナが吼えた。     
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