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 その瞬間、金髪の女は凶暴な男に変わっていた。  先ほどまで色っぽく動いていた体が急に男になった。大股で舞台を走り回り怪我をした主人公を抱えて物陰に隠れる。物陰から伺った隙に銃弾がダイアナの頬を掠めて長い金髪が千切れて舞った。舌打ちをしたダイアナが邪魔くさそうに髪をかき上げて、驚いている主人公に男の声で謝り笑う。 「悪いな、ほんとは男だったんだ。女のまま消えようと思ってたが、流石に死にそうなやつ残して逃げらんなくってよ」  ハスキーな声の色っぽい女は消え、粗っぽい男が歯を剥いて笑いながら敵の集団に躍りかかった。激しいアクション。高まる音楽。怪我をした主人公が大声でダイアナの名を叫んだ時、金髪の男は十数人の銃弾に撃たれて倒れた。その瞬間、劇場全部が凍りついたように静かになった。金髪の女が本性を表してから倒れるまで、一瞬たりとも舞台から目が離せなかった。  物語の主役は友宏ではなくても、舞台の主役は間違いなく友宏だった。  結局ダイアナは生きていたし、二重スパイとして裏切りを重ねた彼はどこからも捨てられて、最後に主人公に拾われ怪盗仲間となりハッピーエンドになるのだが、どのシーンでもダイアナは観客の目を奪う存在だった。     
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