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 物語が終わり、幕が降りた隙に隣のマミを見ると、泣きながら見たことないような笑顔で拍手をしていた。幕が再び開いてキャストたちが横並びで一礼した途端拍手が一層大きくなって、睦月は舞台の上の友宏が穏やかな顔をしていることに安心した。主演の人が舞台の真ん中で一言挨拶をして、こんなにどこにいたんだと思うくらいの量のバックダンサーや名もない役の人達が順番に「来てくれてありがとう」みたいな挨拶をしていった。それが徐々に名前のある役のキャストに交代していって、ラスト二人になったところで友宏がマイクを持った。 「ダイアナ=ディアン役の狭間友宏です。本日は、誠にありがとうございました!」  家では聞いたことのない張りのある声だった。 「お陰様で連日満席の中、ここまで走り抜けてくることができました。ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、僕は途中からの参加で、それでも座組のみなさんや観客のみなさんに受けいれて貰えて、本当にありがたく思っています……僕は、今回速風光司さんの……代役で……」  そこで、友宏の声が詰まった。マイクを下げ、口元を抑えて俯く。  沈黙があった。  劇場が水を打ったように静まり返った。  泣かないって、決めてたのに。  かすかにマイクに入った声は、そう聞こえた。  隣にいた主演の人が、友宏の肩を叩いてマイクを取った。 「ご存知の方もいらっしゃることかと思いますが、先日、ダイアナを演じる予定だった速風光司さんが亡くなりました。一同、この場を借り、彼に黙祷を捧げます」  舞台に一列に並んだキャストたちがそれぞれ、胸に手を当てて黙祷した。友宏だけが俯いていた。綺麗に黙祷なんて出来るわけがなかった。そんなに友宏の喪失は小さくない。     
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