兄の恋人と一緒に暮らす

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「狭間くんは、速風さんが抜けた座組に現れた救世主でした。稽古期間もみんなより少ない中で、もう本当に頑張ってくれて、座組で一番年下なのに誰よりも刺激を与えてくれる存在で、彼が来てくれたおかげでこの公演を最後まで終えることができました。もう彼の素晴らしさは、みなさん存分に体感してくれたかと思いますが」
　大きな拍手が起こった。顔を上げられない友宏に客席から控えめな声援が上がっていた。友宏は主演の人に背中を支えられながら顔を上げ、手のひらで涙を拭い、胸に手を当てて深く頭を下げた。そうして顔を上げた時にはもう涙は消えていて、マイクを通さなくても通るような声で「本当に、ありがとうございました！」と叫んだ。胸がいっぱいになるような拍手が、再び頭を下げる友宏を包んだ。
　狭間くんはすごいんだよ。
　そう言ったマミの言葉が思い出された。
　それから仕切り直しのように主演の人が長い挨拶をして、舞台上の人たちが一礼をして幕が降りた。それでも拍手は鳴り止まず、観客の一人一人が座席から立ち上がりはじめた。スタンディングオベーションというものを、睦月は生まれて初めて目の当たりにした。二階席は立ち上がることを禁止されているのでみんな座っていたが、それでも拍手は耳に痛いくらいに鳴り響いた。マミは友宏の挨拶の時からずっと泣いていた。そして長い拍手の中、唐突にオープニングでかかった音楽が鳴り響いて幕が上がり、主演の人がひとりで舞台上に現れた。