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「温かい拍手に感謝して、これからスペシャルカーテンコールです! といきたいとこですが、レディの着替えは長いってみんな知ってるよな? その間喋ってこいって言われたから、オレ様主役なんだけど! 間を持たせます!」  歓声が上がった。一人の俳優ではなく主役のお調子者怪盗に戻った男が歓声に気持ちよく耳を傾ける仕草をしたところに、後ろからゆるふわ金髪ロングヘアのダイアナが現れた。「誰がレディだって?」と主役に凄んでから客席ににっこり手を振る。それはもう狭間友宏ではなかった。挨拶の途中で泣いた十九歳の若手俳優はどこかに引っ込んで、色っぽく男をたぶらかす癖に本性は粗っぽい男のスパイが現れていた。ダイアナ=ディアンは客席にセクシーなウインクをして、主役と共に舞台のど真ん中で歌声を張り上げた。  舞台の最中から気づいてはいたけれど、友宏は驚くほど歌がうまかった。友宏が舞台の真ん中で客席に向かって声を伸ばすと背中がビリビリした。広いホールなのに声がまっすぐに伸びて、歌声に胸を撃ち抜かれたような感覚になる。大音量にも負けずに声を張る姿はかっこよくて、コーラスを従えて歌うと友宏だけ抜きん出て声が響いた。腹の底から声を張り上げているようなのに疲れた様子も苦しそうな様子もなくて、主役の人と向かい合って怒鳴るように男の声で歌う姿は女の格好とアンバランスで色っぽく見えた。     
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