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 メインキャストもバックダンサーも入り乱れて歌い踊る中、間奏で急に舞台から主役とバックダンサー以外の人が消えた。舞台の真ん中でお調子者怪盗が二階席を見回し笑う。 「二階席、覚悟しろよ。俺みたいにめろめろにされちゃうぞ?」  隣でマミがひっと息を呑んだ。と思ったら背後から歓声が上がり、振り返ると金髪の女が扉を開けて艶めかしく立っていた。悲鳴のような歓声を受け止めて、ダイアナ=ディアンは真っ赤な唇で余裕たっぷりに笑んだ。  ダイアナはハイヒールのかかとを鳴らして悠々と席の間を歩き、睦月とマミの斜め前の柵に凭れるように立ち止まった。舞台上では遠くて見えなかったが、柵に載せた爪が赤い。唇も真っ赤でつやつやで、目はよく見ると金色だった。つけまつげがばざばさで色っぽい。男なのに女にしか見えないダイアナは胸の下で腕を組み、ゆっくりとまばたきしながら余裕たっぷりに二階席全体を見回した。  目が合った。  そう思ったのは睦月だけかもしれない。そこに睦月が知っている友宏はいなくて、すぐに外された目線はもう他の誰かを捉えていた。舞台で力強く歌う主演に心地よさげにハモりながら今度はマミの視線を捉えてウィンクし、と思ったら別の客ににっこり笑ってみせる。ダイアナはしばらく観客の視線を捉えて自在に歓声を起こしてから、スッと未練なく客席を離れて歩き出し、ホールの出口で一度振り返った。     
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