1

47/54
前へ
/274ページ
次へ
 今度こそ目が合った。  片目を瞑って投げキッスされた。  歓声が湧いた。  睦月が面食らっている間にコートの裾を翻して女は消え、音楽は高まって、大サビに入った頃にはもうダイアナは舞台の上に戻っていた。本性を知られているダイアナは女の姿で男の声を張り上げ、その腹の底に響く迫力に背筋が痺れた。曲が終盤に向かうのに合わせて舞台から一人ずつダンサーたちが消え、メインキャストも一礼してそれぞれ舞台奥に消えてゆき、フィナーレを前にダイアナ=ディアンが片腕を優雅に上げて腰を深く落とす礼をした。熱い拍手が湧いた。そうして友宏が腰を揺らして歩きながら舞台の奥に消えたあと、お調子者の怪盗が両腕を広げて客席全体に一礼したところで唐突に音楽が消え、照明が全部落ちた。  耳が痛くなるような静寂があった。 「じゃあ、また次のお宝でも探しに行くか」  真っ暗闇の舞台で怪盗が言って、その瞬間、舞台奥のスクリーンにメインキャスト全員の写真が映し出された。 『続編決定! 来春 東京 神戸 WANTED』     
/274ページ

最初のコメントを投稿しよう!

933人が本棚に入れています
本棚に追加