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 悲鳴のような歓声が上がった。途端に頭上から紙吹雪みたいにチラシが降り注いだ。足元に落ちて来たものを拾うと、スクリーンに映っているのと同じ写真の上にキャストの名前が印刷されていた。 『ダイアナ=ディアン・狭間友宏』  隣を見るとマミがチラシを見ておろおろしていた。 「睦月、睦月、どうしようチケットとるの協力して」 「うん……」  ぼうっとしたまま答えた。たぶん友宏にお願いしたら取れるんじゃないかなあとも思ったが、だめなんだよな、と思い直した。  金色の目に見つめられながら投げられた、真っ赤なキスを思い出した。  男にも女にもなれる期待の若手俳優、狭間友宏。  こんなにすごいことをしているだなんて、思わなかった。  ぼうっと余韻に浸りながら座っていたら、本日の公演はすべて終わったからさっさと帰れというアナウンスが三回くらい流れたので、マミと一緒にロビーに出た。マミがパンフレットを買うというので見送って、人混みを避けて壁際に寄る。ロビーに溢れる女の子たちを見ながら、このうちの何人が友宏のファンなんだろうと考えた。みんな泣いたり笑ったり幸せそうで、それが友宏の仕事なんだよなあと思うと自分のことでもないのになんだか誇らしいような気がした。 「睦月君」  ぼんやりしていたら呼ばれた。隣を見ると友宏の事務所の社長が親しげな笑みで立っていた。 「お久しぶりです……あ、チケットありがとうございました」     
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