1

49/54
前へ
/274ページ
次へ
 そういえばこの人に電話でお願いしたんだ、と思い出して、睦月は慌てて頭を下げた。社長は気にするな、というように首を振る。その顔がなんだか満足げだった。この人も舞台を見ていたのだろうか。 「で、友宏はどうだった?」 「すごかった……です」  舞台上の友宏を思い出すと胸がぎゅうっとなった。色っぽくてかっこよくて、それが毎日家で顔を合わせている友宏と同じ人間なのだとはなかなか思えなかった。毎日真っ白な顔で起き出して、終電で帰ってきて、とっくに限界なんて超えていたはずなのだ。それでもこの日まできちんとやりきった友宏を、すごくかっこいいと思った。 「それはよかった。いや、君にはお礼を言わなければならないなと思っていたんだ」  社長はおもむろに一歩下がり、頭を下げた。 「君に、友宏の大変な時期を任せきりにしてしまって、すまなかった。ありがとう。おかげでうちのエースを潰さずに済んだ」 「いえ、あの……友達、なんで」  大人の男の人に頭を下げられるなんて初めてで慌てた。友達。そう言ってから、そういえば自分と友宏は一体いつ友達になったんだろう、と思った。同じ家で暮らして、同じベッドで寝起きして、いろいろなものを飛び越えて一緒にいる気がする。 「君が友宏と一緒にいてくれて助かったよ。ところで睦月君、髪型変えた?」 「へ?」  いきなり言われて驚いた。     
/274ページ

最初のコメントを投稿しよう!

933人が本棚に入れています
本棚に追加