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最後の封筒を開けた時にマミがガッツポーズして、手元を覗くと金髪のダイアナ=ディアンがスーツで格好つけて立っている姿が見えた。舞台上ではちょっとしか見られなかった、本性を見せた金髪スパイ。口紅もカツラもしていなくて、凶暴そうな笑顔で銃を構えてこちらを睨みつけている。視線の強さも立ち方も、何もかもが家で見る友宏とは全然違った。
見せる側ってこういうことか。
渡された名刺を財布の中にしまいながら、考える。
たぶんこれは、兄の七光りというものだろう。
※
友宏は未成年だったので、打ち上げの途中で一人だけ先に帰された。少し寂しいような気もしたが気を遣ってもらえるのはありがたいし、実際疲れて死にそうだったので、そのまま普通に電車に乗った。
家に着くと真夜中なのに玄関の磨りガラスから明かりが漏れていた。睦月がまだ起きているのだろうか。
渋い鍵穴に鍵を差し込んで、手首をちょっと持ち上げてから回す。ガラガラうるさい引き戸を開けると、おかえりー、と気が抜ける声が聞こえた。続いてぱたんぱたんとスリッパの足音。睦月はいつの間にスリッパなんて買ったのだろう。
「おつかれさま」
パジャマの上にカーディガンを羽織った睦月が眠そうな顔で出てきた。そのぼんやりした姿に、一気に全身の力が抜けた。
「うわ、ちょっと、友宏?」
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