プロローグ

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 司会が「これより先は親族のみで云々」と言うのを合図に立ち焼香が行われ、やがて席の後ろの方の気配がごっそりと消えた。それから通夜振る舞いの席を用意するからそれまでロビーなり控え室なりに移動しろ、と言われたので席を立った。当然のように睦月は友宏の手を引いた。友宏もまた、されるがままついてきた。 「弟って、お前のことだったんだ」  友宏が思い出したように呟いた。 「うん。光司とは五回しか会ったことないけど」  兄弟とはいえ、光司のことについて睦月はほとんど知らない。半年前に突然引き合わされて、家族だ、と告げられた。その時の光司は嬉しそうだった気がする。睦月を上から見下ろして、顔全体で笑う光司のことを覚えている。 「光司、二月が済んだら弟に会わせるって言ってた。受験生なんだって」 「おれも、恋人を紹介したいって聞いた」  光司は睦月を連れ出したがった。しかし睦月は一応受験生で、二月末までは忙しい。両親も籍こそ入れたが同居は睦月の受験が終わるまで先延ばしにしている。そのあたりを話すと光司はなんにもわかっていないような顔で頷いた。じゃあ二月終わったらな、と頭をぐしゃぐしゃに撫でられて、それがちっとも嫌ではなかったことが睦月は未だに不思議でならない。 「……そういえば、顔、めちゃくちゃ似てるな」  赤く滲んだ目を合わせて言われ、睦月は首を傾げる。自覚はなかったが、離れて育ったとはいえ同じ両親から生まれているから、顔は似ているのかもしれなかった。     
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