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 制服を着ないで学校に入るのは妙な感じだった。来客用のスリッパを履いて二階の職員室で名前を告げると、かつての担任教諭は驚いた顔をで出てきた。 「一瞬女子かと思ったぞ」 「はあ……最近よく言われます」  睦月は伸びてきた髪をいじった。以前はストレートに矯正して短くしていたが、最近は面倒で放っておいている。流石にそろそろ切らないと襟足が伸びて首筋が汗ばむようになった。六月。元担任教諭は袖を捲くり、ネクタイを外している。 「お前も在学中は大変だったな。こっち座って。で? 志望校変えるって?」 「はい。お母さんが再婚したら父親がめっちゃお金持ちで特待生狙わなくてよくなったし、暇だしランク上げよっかなって」 「ああ、お前いま苗字速風だっけか。うーん、どこ狙い? 国立?」 「ええ、まあ」  睦月を来客用のスペースに座らせて担任は唸った。 「お前ってもともと国立志望だったっけ」 「いや、私大。コースは国立文系だったけど何個か私大で奨学金貰えそうなとこあったんで、途中で変えて、特待生狙えるとこに」 「そもそも最初は就職するとか言ってなかったか?」     
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