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 ただの黒い傘だと思ったら、開くと中身は青空だった。こんな変なもの、睦月はもちろん友宏の趣味でもない。友宏はお洒落だけど、職業柄、という感じだし、派手なものは持っていない。きっとこれは光司のものだ。あの家にはまだ光司のものがそのままになっている。靴も服も、洗面台とかお風呂にある細かいものたちも。  駅に向かおうとして、ふと今朝の友宏のことを思い出した。出て行った時、友宏は傘を持っていただろうか。  考えても思い出せないのでラインを飛ばした。 『雨ひどいけど傘ある? いま外だから駅で待ってられるけど』  駅まで歩いている間に返信が来た。 『助かる。五時半には着くはず』  スタンプを送っておいた。  母校から家の最寄りまでは乗り換えを入れて一時間くらいだ。  電車に乗っている間、なんとなく光司のことを考えた。そういえばいま睦月が着ている服も、履いているスニーカーも、光司に買われたものだった。光司は睦月を連れ出したがった。十二月のクリスマス前の金曜日、センター試験も近いというのに、突然高校まで睦月を迎えに来て渋谷と原宿を連れ回した。結局センター試験はインフルエンザに罹って受けられなかった。光司のせいだ。     
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