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光司行きつけの美容室で髪をいじられ、色々な店で服を買われた。途中で制服を脱がされ光司が選んだ服を着せられた。睦月、もっとかわいい格好しなよ。これ似合う絶対似合う。お兄ちゃん買ってやるよ。そんなことを言いながら睦月の意見なんて気にしないでどんどん服や靴を買う兄を覚えている。睦月にはよくわからないが、光司はたぶんセンスが良かった。高校の制服で生きていた睦月が見たこともないような服をどんどん買って着せて、結局その日の買い物は紙袋五つくらいになった。
道端でそれぞれ味の違うクレープを買って交換しながら食べた。足の長い光司に合わせてちょっと小走りになったりしていると、気づいた光司は睦月の手を握って笑った。こうすれば楽だろ。そう言って、睦月に合わせてペースを落として歩く光司の無邪気な横顔。男同士で手を繋ぐなんて恥ずかしかったけれど、それ以上に楽しかった。光司と一緒にいられて嬉しかった。あの日の思い出は睦月の中にまだ鮮やかに残っている。家にある睦月の引き出しには、あのとき光司に買われた服がたくさんある。
家の最寄り駅に着くと完全に土砂降りになっていた。五時二十二分。ベンチに座って友宏を待つ。金属のベンチは冷えていて、お尻がつめたい。
ぼんやりと待っていると、人ごみの中から友宏が現れて目の前に立った。何も言われないので顔を上げると、友宏は妙な顔をしていた。
「おかえり」
「……一瞬光司かと思った」
「光司もっと大きいでしょ。濡れた?」
「ちょっとな。連絡くれて助かった」
友宏は当然のように睦月の手から傘をとった。友宏の方が背が高いから合理的だ。
傘を開くと友宏が驚いた。
「こんな傘あったっけ」
「適当に取ったらこれだった。光司のじゃない?」
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