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 雨が打ち付ける傘の中で、友宏の声は小さく聴こえた。 「……そうだね」  家の中で、光司のものはまだそのままになっている。使いかけの香水も、歯ブラシも洗顔料も、服も。  速風光司はもういない。  もういない人間のものをそのままにしておくのは、堪える。  翌日から、少しずつ光司のものを整理し始めた。  使いかけの洗顔料とか歯ブラシはさすがに捨てた。香水の瓶はとっておくことにした。いまは温室状態の光司の部屋、光司が気に入っていたらしいソファの上に、写真と一緒に並べた。腕時計や気に入っていたらしいアクセサリーも。遺骨でも分けてもらえば小さい仏壇みたいになるかもしれない。睦月は今度実家に行った時に聞いてみようと考える。確か、納骨したものとは別に分けたのが実家にあるはずだ。  光司のものはほとんど服ばかりだ。何しろ脱ぎ捨てられたままになっていたものもそのままにしていたので、さすがに一度洗濯した。それらはとりあえずダンボールに入れたが、梅雨時だ。放っておくとカビるかもしれない。 「着られそうなのあったらもらえば」  友宏は言うが、睦月に光司の服は大きすぎるし、言った当人にもそんなことはできそうになかった。     
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