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 興奮した犬のようになっている光司を片手で押し退けながら、十七歳の友宏は真面目な顔をしている。照れ隠しなのがとてもよくわかる。  睦月の隣の友宏は、黙って画面を見ている。 『ねえ、トモ、口開けて』  画面の中で光司が言って、十七歳の友宏は素直に口を開ける。 「これ、マジで打ち合わせとかなくて、ふざけんなって思った」  不意に隣の十九歳の友宏が言って、睦月は思わず隣を見た。  テレビから黄色い悲鳴が聞こえた。  視線をテレビに戻すと、画面の中、夜の観覧車の下で、光司は友宏の顔を両手でがっちり押さえて思いっきり口付けていた。舌が入っていた。素直に口を開けていた友宏は光司の本気のキスに固まって、数秒後に気づいてばたばたと光司の腕を叩いた。それでも光司はびくともしなかった。友宏の両頬を大きな手で掴んで、舌を入れて、角度も何度も変えて、友宏がおとなしくされるままになるまでたっぷり一分以上は舌を絡めていたと思う。十七歳の友宏が何かを諦めて腕を下ろし、その腕が迷いながら光司のコートの裾を掴むのが画面越しでさえいじらしかった。ぎゅっと目を閉じた友宏と、薄く目を開けている光司。光司の顔には背中が寒くなるような鋭い色気が滲んで、ワイプで抜かれたアイドルたちも、テレビの前の睦月も、何も言うことができなくなった。     
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