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このときまでは、動物が毛繕いするような微笑ましいキスばかりだった。あるいは洋画や海外ドラマで見る、親が子の耳元で唇を鳴らすような。
この瞬間の光司のキスは、男が恋人にするキスだった。
光司がようやく唇を離したとき、友宏はもうぐったりして、光司の肩に顔面を押し付けた。光司のコートを握りしめた手は震えて、耳まで真っ赤だった。
『おれ最初に自信あるって言ったよ?』
言いながら光司はあやすように友宏の肩を叩く。その姿からは一気に色気が抜けていた。いつもの、人懐こくて明るい、バカな光司だった。
『聞いてない……バカ』
負け惜しみのように言う友宏はもうぐずぐずで、あっけらかんと笑っている光司がかろうじて今のキスを明るいものにしていた。
それから画面はスタジオでキャーキャー言う女の子たちに戻り、今回二人がデートした場所の詳細と、光司の写真つきカレンダーの宣伝が流れた。睦月はなんだか疲れてソファに背中を沈めた。
「これ全国放送されたの?」
かろうじて言った。
「いや……関東ローカル。でも俺もよくカットされなかったなって思った」
「友宏、よくこれ見せてくれたね」
「仕事だし。口で説明すんのめんどくさかったし……こんなん説明できないし」
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