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 確かに、仕事で出会って不意打ちでディープキスされたなんてなかなか言いにくいとは思った。しかもそれが地上波で放送されたなんて。 「この後に事務所で会ったりして、家探ししてたら拾われた」  プレイヤーからディスクを取り出しながら友宏は言う。 「だから一年ちょっとかな……会ってから……」  光司が死んでしまうまで。  言おうとして、言えなかったのだと思った。 「コーヒー淹れてくる。いる?」 「いる……牛乳いっぱいいれて」  友宏は目を合わせないままいなくなって、睦月はソファに沈んだ。画面の中の光司が目に焼き付いてぐったりした。  たぶん、光司は友宏に一瞬で惚れたのだと思う。画面の中で光司が友宏を見る目が優しかった。それなのに隙なくじっと観察していて、きっと本気で欲しかったのだと思う。明るくて人懐こくて優しいのに、光司はときどき肉食獣みたいな目をしていた。五回しか会ったことがない睦月でさえ、光司が本気を出したら抗えないだろうなと思っていた。その本気が何に対してなのかは今日までわからなかったけれど、いまならぞっとするほどわかる。     
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