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 光司は得体の知れない色気と迫力がある男だった。女のように美しい顔で、華奢なのに大きな体で、いつだって華やかにそこにいた。自分のアンバランスな見た目を存分に使って欲しいものを毟り取りにくる。自分が拒否されるなんてことはまるで考えていなくて、お前も好きだろ、みたいな顔でいつでも隣に来る。そんなのに不意打ちでディープキスなんてされてしまったら、きっとひとたまりもない。  この家の中で友宏は、死ぬほど愛されていたのだろう。拾われて、大切にされて、それが突然いなくなった。あんなに烈しく身勝手な、爪痕みたいな愛情の記憶だけ残して。それは、どれほどの喪失だろう。  母のことを思い出した。  光司と同じく美人な母は、再婚するまで、よく男に騙され捨てられて泣いていた。しかし母自身には騙されたという自覚は全然なくて、母はただ、恋の終わりに泣いていた。好きな男を失ったという現実に泣いていた。泣きすぎてなにもかも枯れ果ててしまうのではというくらいに。睦月には、ただ母の横にいることしかできなかった。それでも母は睦月に縋ってくれた。縋ってくれたから、睦月は泣く母の背中を撫でて、暖かい飲み物くらいは用意してやることができた。  だから、睦月は知っている。  失恋した人間を相手に他人ができることなんて、本質的にはなにもない。  友宏は全然睦月を頼ってこないけれど、だからと言って、平気であるはずなんてない。  たった一時間、それも外向けの、仕事中の二人を見てさえわかる。     
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