2

18/56
前へ
/274ページ
次へ
 光司からはみずみずしい、いい匂いがした。撮影の日とは違う柔らかさで唇を押し付けられて、油断した隙に舌が入ってきた。光司の匂いに体の力が抜ける。たぶん香水だと思うのに、光司の色気そのものみたいな気がして頭が痺れる。光司の指が耳たぶを弄っていた。いつの間にか舌が口の中を柔らかく動き回っていて、こちらの舌が捕まる。生ぬるいような体温が口の中で混ざる。唾液が混ざるのなんて気持ち悪いだけだと思っていたのに、腰が抜けるかと思うくらい気持ちよかった。いつの間にか両手が光司の服を掴んでいて、手を離したら膝が萎えそうで怖い。これ以上続けられたら駄目になる。そう思った瞬間に唇が離れて、友宏はかろうじて息を吐いた。顔が熱かった。目の前で細められたあかるい瞳は笑っていた。 「勃った?」 「……勃った」  恥ずかしくて目を合わせていられなかった。誤魔化しようもなかった。光司の膝が脚の間に入れられていて、どうしようもなく当たっていた。 「もしかしてさあ、おれ、ファーストキス貰っちゃった?」 「……うん」  隠しても無駄だと思った。光司の前でなにを取り繕っても無意味だ。なんでこんなに好かれてしまったのか分からない。こちらを見つめる光司の瞳は肉食獣のそれで、自分はこれからばりばりと喰われるのだと思った。それで構わないし、そうして欲しいような気さえした。断られるなんて微塵も思っていない顔で剥き出しに誘われて、それを無視できるなんてどうかしている。  光司はふっと友宏から離れた。無意識に縋るような目になってしまってから気づいた。いまきっと、自分はとても情けない顔をしている。 「準備してくる」  光司は心配するな、というように友宏の頭を雑に撫でて風呂場に消えた。少しして乾いた髪のまま服を着て出てきて、突っ立っていた友宏の手を掴み、ベッドルームに引き込んだ。  結論から言って、なんの約束もないままに友宏の童貞は奪われた。てっきり喰われるのかと思っていたら、光司は困ったように首を傾げた。     
/274ページ

最初のコメントを投稿しよう!

933人が本棚に入れています
本棚に追加