空から折りたたみ傘

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四時間目のチャイムが鳴るまでもう少しだった。 「もうすぐ夏休みだけどさ、きさらはどうすんの?」 「補習になりそうなんだなぁ、古典が。」 思わずガクッと机に突っ伏した。教室のカーテンのように軽やかになびくのが仕事ならどれほど幸せかと思ったが、こちらは点を取って初めて仕事完了ってとこだ。歴史は得意なだけに……と思いたいところだがそうも上手くはいかず、古典が特に成績の足を目いっぱい引っ張っていた。 古典、と言えばまたまた登場、同級生の相沢だ。 平均的に優秀な成績なのだが、古典だけは特に驚異的な実力の持ち主だった。 「相沢に教えてもらったらいいのに。」  千夏の気安い発言の流れで、少し離れた席で何か本を読んでいる相沢の後ろ姿をチラリと盗み見るかのように視線を向けてみた。  すると彼は自分の名前が呼ばれたのが気になったのか軽くこちらに視線を寄越した。それは想定外に見ることができた彼の涼し気な、でもそれほど興味を示すわけでもなさそうな横顔に一瞬で胸が高まって、でも耐えられず視線を逸らした。気安く名前を口にした千夏もどぎまぎした表情を浮かべていた。 ――エベレスト登頂より難しいんだから―― チャイムの音がくすぐったく聞こえた。
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