0人が本棚に入れています
本棚に追加
ひとり、呟く。特に誰に言うわけでもなく、心に思ったことがたまたま口に出ただけだった。
その青年は、コーヒー缶を口につけて、一口飲む。
「おい」
どこからか呼びかけられた声。まだ、雨は降り続けている。青年は辺りをゆっくりと見まわした。すると、一つの人影を見つける。
フードを深くかぶり、薄手の長袖に、ジーパン。変わったところといえば、傘を差さずにずぶぬれである。
「な……なに?」
青年は、警戒する。こんな、真夜中に傘もささずに現れたのだ。しないはずはない。こんな時間に現れるのは、幽霊か、もしくは変わった強盗か何かぐらいだ。青年は、幽霊というものを見たことはない。自然と、後者だと考えてしまう。
フードの間から、こちらをうかがう視線を感じる。
お互いに沈黙する。聞こえてくるのは、水玉がアスファルトを弾く音と、自動販売機の小さくうねる機械音だけだった。
「ぬ……濡れてるよ?傘は?」
青年は、馬鹿かと自分自身に思った。沈黙に耐え切れず、口から出たのがそれだった。
「あ?傘?ああ、お前の持ってるそれか。そんなもんあったな」
相手の返答に困惑しつつも、このまま立ち去るのもまずそうなので、続けようとした。
「風邪ひくよ?」
「……別にどうでもいい」
「気にならないの?」
最初のコメントを投稿しよう!