0人が本棚に入れています
本棚に追加
「ふーん……」
「で、そのよからぬものは、村人に溶け込んだみたいでさ。だれが、そいつかわからなくなったらしい。で、その『よからぬもの』は夜な夜な人を喰ってるだとか、どうとかって話らしいぜ」
「へえ」
「そう、で、鬼から与えられた傷は、今でも残っていて、雨の日に傷がうずく奴がいれば、そいつが『よからぬもの』なんだと」
フードかぶりは、手をポケットに突っこんだまま下を向く。
「『よからぬもの』ね……」青年は、つぶやく。何か、思うことがあるのだろうか、けれども何も続けなかった。
「まあ、ただの与太話だな」
「ああ、そう……。それ、お前じゃないよな」
「ちげぇよ。一緒にすんな!もしそうだったら、もう、てめぇを襲って喰ってるはず」
「そっか、こんな悠長に話なんかしていないかもね……」
沈黙。雨足は、強くなるばかり。しかし二人とも、動くことはしなかった。
青年は、ふと、この話をしてみたくなった。自分自身の話を。
「僕も、話していいかい?」
「ん?なんだ?」
「実はさ、僕、ホントは別の世界から来た人間なんだ」
「は?何言ってんだよ……。意味わかんね。まあ、別に聞いてやらんこともないけど」
「ははっ、ありがと」
最初のコメントを投稿しよう!