本編

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 青年は、一つ一つ思い出すように言葉を、紡いでいく。 「あれは……、そうだね……」  青年は、懐かしさを覚える表情へと変わる。それは、今となっては遠い記憶。 「そのときはさ、山里に住んでいる爺ちゃんちへ行った時の話なんだ」 「おう」 「じいちゃんの家って、普通の家よりちょっと、広くてさ。まわりに、塀が囲ってあるんだよ。2mぐらいだったかな。当時の僕の背より大きかったんだ。でさ、爺ちゃんちに入る前に、ふと、横の塀が何か気になって、チラッと見たんだ」 「へぇ」  フードかぶりの相槌が、どこか塀(へい)にかかったダジャレのようで、青年は一瞬おかしく思えた。しかし、それもあの時の思い出により吹き飛んでいく。あの頃の自分。あの時の自分。運命が変わった日。青年にとって、常識が何もかも突然変わり、そして、今まで持っていた、大切なものを何もかもすべて向こうに置いて行ってしまった日であった。 「見えたんだ。黒長の髪の毛で、白い帽子をかぶっていたものすごく綺麗な人」 「ふーん……さぞかし、美人さんだったんじゃねぇかな……」 「詳しく顔は思い出せないんだけど、ものすごく綺麗だったイメージはあった。でも、言いたいのはそうじゃない。すごく奇妙だったのが」 「……」     
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