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雨が降っていた。本降りだった。無数の雨粒が傘とアスファルトの上ではじけ、規則のない音楽を奏でている。
リカは傘をさしながら帰り道を歩いていた。隣にはクラスメイトのエリがいる。二人に対して傘はエリの持つ一本のみ。安物のビニール傘では完全に雨を防げておらず、二人とも外側の半分は濡れていた。下着までびしょびしょだった。
リカは内心イラついていた。安物といえど自分の傘である。天気予報を見て、夕方の雨に備えるため傘を持ってきた。それなのに、なぜ濡れなければいけないのか。エリが傘を持ってきていれば濡れずに済んだ。図々しく傘に入れてと言ってこなければ、何も問題なかったのだ。
元々、エリとはそれほど仲が良いわけではなかった。中学時代は存在を認知していたものの、一言も会話したことがなかった。同じ高校に進学し初めて一緒のクラスになった。まだ同じ中学のメンバーで固まっている時期にようやく言葉を交わした。その程度の仲なのだ。
そんなエリのためになぜ濡れなければいけないのか。表情には一切出さないものの、リカの内側ではイライラがぐるぐると渦巻いていた。
じきにエリと別れるT字路にさしかかる。リカが家までついて行けるはずもないので、エリは濡れながら走ることになる。どうせ全身ずぶ濡れになるのだ。初めから傘に入らずに帰ればいいのに。そう思うが、一応、友達という関係上、冷たくあしらえるはずもない。そんなことをすれば、翌日にはリカの悪口が広まっているに違いない。割に合わない。面倒くさい。どうにかしてエリに仕返しをしたい。そんなことを考えていると、リカの脳裏に昨日ミンスタで見た話が思い浮かんだ。隣のエリに話しかける。
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