雨音に耳を澄ませば悲鳴が聞こえる

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 邪魔者が消え、リカはようやく傘を専有することができた。しかし、濡れてしまった服が乾くはずもなく、べとべとの不快感が消えることはなかった。 「はぁ、早く着替えたい……」  リカは帰り道をのろのろと歩く。早く歩けば濡れる。濡れる上に疲れる。がんばってもいいことはない。  雨の音ばかり聞こえる。時折、車が通り過ぎ、派手に水たまりをはじく音が混じった。  ポケットの中のスマホが震えた。  リカはスマホを出すと内容を確認した。エリからメッセージが届いていた。 ”なんかいる” ”なんかってなに?”  意味が分からなかったので、リカは問い返した。   ”水たまり”  冗談のつもりだろうか。 ”見られてるの? 吸い込まれないようにね”  リカは適当に返してスマホをポケットにしまった。  目の前に大きな水たまりがあった。リカは隅の浅い場所をわざと踏んで、超えていった。水たまりの主どんと来いである。そんなものが現実にいるとも思わないし、万が一いたとしても傘をさしているから平気だ。  ふと、雨音の向こう側から、甲高い声が聞こえてきた。悲鳴のようだった。時間にして一秒にも満たなかった。 「え?」  悲鳴のような声は、エリが帰っていった方角から聞こえた。リカは立ち止まって、耳をすませてみる。が、雨の音以外は聞こえてこない。  さっきのはエリの悲鳴だろうか。空耳かもしれない。鳥の鳴き声かもしれない。どこかのテレビの音かもしれない。それでも、リカは気になって、何かに急かされるように、来た道を戻っていた。少しぐらい濡れるのもかまわず、早足で進んでいく。  三十秒程度で、エリと別れた地点に戻った。リカは何百メートルと真っ直ぐに伸びる道を見る。雨で視界が悪いが、誰も歩いていない。走ってもいない。車も自転車も通っていない。  おかしい。エリの家は道の一番先、走っても三分以上かかるはずだ。先ほど別れて、リカがこの地点に戻ってくるまで一分半程度しか経っていない。エリの姿が見えないのはなぜだろう。住宅街の一本道で途中に店があるわけでもない。どこかに寄り道している可能性はない。そもそも、雨に濡れた状態で寄り道するだろうか。では、エリはどこに消えたのか。
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