『吸血機殺し』

12/33
前へ
/33ページ
次へ
『吸血機殺し』は両指から血液を垂らす。  変化は一瞬であった。十筋の血液が鋭い槍となり、その矛先を吸血機たちに向ける。 「では死ね」  十の紅槍が放たれ、吸血機を貫く。 「では散れ」   拳で頭を砕き、脚で心臓を打ち。 「では去ね」  子供がおもちゃを壊すかのように容易く吸血機を屠る。  その光景はおぞましいものであった。  ワンサイドにしてジェノサイド。  ものの数分足らずで、吸血機たちは残骸と成り果てた。  現行最強。そのはずだった。 「てめえら程度じゃあ、肩慣らしにもならねえよ」  吸血機の残骸に座った『吸血機殺し』の周りに大量の血が集まってゆく。  吸血機たちから流れ出る血液は全て飲み干された。真の残骸となった吸血機たちに、『吸血機殺し』は何の感慨もわかない。  吸血機を殺める。それはただのルーチンワークでしかない。 「やはり不味い……ちったあ食い甲斐のあるやつはいねえのか」  ただ量が多いだけだと、不満げに『吸血機殺し』はつぶやく。 「三〇の吸血機を瞬殺するなんて……お嬢様、あの男は紛れもないジョーカーです」 「吾はとんでもないものを呼び起こしてしまったのだな……」  三〇もの吸血機がいれば、小国程度なら落とせるだろう。それだけの強さがある。  それを、ものの数秒で『吸血機殺し』は沈黙させた。  己は兵器であると、『吸血機殺し』は言った。それは、るにせの采配次第でいかようにも出来るということだ。  るにせは冷や汗が伝うのを感じた。 「嬢ちゃんたち」 「む、なんだ」 「物陰に隠れてろ」 「なぜだ? 吸血機は全滅したのだろう?」 「全滅させたなんて言ってねえよ」 「たしかに……! では、いるというのか? 他にも吸血機が」 「ああ、そうだ。こいつらみたいなのとはちょいと勝手が違うぞ」 「そいつも倒せるのであろうな」 「当然」  るにせとセツナが瓦礫の山に身を隠すと同時。  紅き光線が走った。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加