『吸血機殺し』

15/33
前へ
/33ページ
次へ
 紅線が上空に向かって放たれる。  その先にあったのは、菱形の鏡であった。  装甲に触れた紅線はその軌道を変える。  単なる反射ではない、反射する度に、より高密度に高威力に高速になるというギミック。  いくつも配置される反射装甲により、紅線はその殺意を爆発的に膨らませていた。 「いかん! あれだけ威力を上げられては!」  るにせは焦り、『吸血機殺し』を見るが──  自然体だった。 「なにをぼさっとしとるかあ!」 「俺はやる気に満ちてるぜ。ホントホント」 「それはやる気のない人間の言うことだ!」 「オイオイ、俺は吸血機だぜ?」 「たわけー!」  『吸血機殺し』を中心に紅く輝くは六芒星。 「其は死の籠目紋。無に帰れ。『吸血機殺し』」  トリガーが引かれた。  紅線が上空より迫る。それは紅の奔流。  紅き爆発が、地を揺らす。 「無事か!」 「いけませんお嬢様!」  爆風が地下のるにせたちまで及び、飛来する粉塵がるにせの顔を叩く。 「次は、華原るにせ。我々吸血機の設計図を──」  甲型は勝利を確信した。  しかし、その確信は一瞬にも満たなかった。  紅の中から響く、チャリ、チャリ、という音。 「……ッ」 「この程度、死線にもならねえ」  影から脚が出る。腕が出る。顔が出る。 「あ、ありえない! 貴様が稼働していた十年前とは違う! 我々は進化した!」 「それがどうした。たかだか十年で俺を越えられるとか思い上がってるんじゃあねえ。レベルが違う!」  煙が晴れ、傷一つない拘束衣の『吸血機殺し』がそこにある。 「最高の一撃は無に帰ったぞ。さあ、どうする?」 「う、おあああああああ!」  返答は恐慌の乱射であった。  耳が痛くなるほどの銃声。  眩い紅い光の明滅。 「無駄だ」  傷も、なにもない。  『吸血機殺し』は無慈悲に甲型の首を掴んだ。 「お前はここで退場だ」  尖った八重歯を首筋に突き立てる。  吸うは吸血機の命。  ごくり、ごくりと喉が鳴る。 「うご……あ、ぐ……」 「見ろ、セツナ……あれが、吸血機というものだ……」  血を全て吸い切ったとき。そこにあるのはからっぽの残骸であった。  物言わぬそれを無造作に投げ捨て、『吸血機殺し』は傲岸な笑顔を浮かべ、るにせを見る。 「……汝は、何者だ?」 「吸血機だよ」
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加