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「ハッ、ハッ、ハッ──」
時刻は昼だというのに薄暗い日本家屋の中、白衣の少女はひた走っていた。
木で出来た床が革靴で踏まれるたび、ギッ、ギッ、と悲鳴を上げる。
一歩進むごとに、背中の三つ編みが背中を叩く。
(あの場所へ……! 一刻も早くあの場所へゆかねば……!)
首にかけたアンティーク調のカギを握ると、冷たい感触が伝わってきた。
(カギはここにある……! これが、切り札につながると、おばあ様は言っていた……!)
と、曲がり角で少女の前に影が現れた。
びくりと動きを止めるが、その人影が知己のものであることに、少女はほっと息をつく。
「セツナ……」
「お嬢様! るにせ様……! よくご無事で……!」
黒髪に赤い瞳のメイドが少女、るにせに走り寄る。そのメイド服には赤いものが付着していた。
「セツナ、血が……」
「私のものではありません……庇われました」
「そうか……汝以外のものは……?」
「喰われました……生き残りは私とお嬢様だけかもしれません。応答するものは皆無です」
ヘッドドレス代わりの白いヘッドフォンは、雑音を流すばかりで。
「そうか……援軍は?」
「時間が足りないかもしれません……」
「万事休すか……!」
るにせのこめかみに嫌な汗が流れる。
「ともかく、あの場所へ……お嬢様ならば……」
「うむ。おばあ様の研究所にならば……!」
壁に偽装されていた隠し階段を二人でかけ降りる。向かう先にあるのはたった一ツの希望。
「ここまでは、私の知っているエリアだな……」
日本家屋の印象とは全く違う光景が階段の下には広がっていた。真っ白な空間だ。
そこは広大な研究所であった。一見では何をするための装置かわからないものがところ狭しと並んでいる。ここが屋敷の心臓部。本体なのである。
「奥へ向かうぞ……」
「はい、お嬢様」
るにせたちは、機器の間を縫うように歩き、更なる深部へと足を進める。
「ここから先だな……おばあ様が入れてくれなかったのは……」
そこにあったのは、巨大な円状の扉であった。
銀行クラスの金庫でも見かけることは少ない大きさ。
それに鍵穴は存在していない。
パスワードを打ちこむ場所もない。
つまり。
「開き方が……わからん……!」
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