『吸血機殺し』

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「お嬢様。冗談を言っている場合ではないかと」 「じょ、冗談ではないぞ! 吾も冗談を言っていいときとダメなときくらい、わきまえておる!」 「で、では……」 「う、うう……カギだから鍵穴があるのが道理だろう!」  再度、カギを見る。いかにも歴史が積み重ねられてきた風なカギだが、いまや無用の長物である。るにせの心の中は負の感情すらわきそうだ。 (どうする……? どうすればよい……?)  時間はない。 『それ』は、追ってくる。『それ』は、迫ってくる。 (ええい、華原(かばら)るにせ! 妙案を思いつくのだ! 世紀の大天才、華原 (みやこ)の血を受け継いでおるのだろうが!)  鍵穴のないカギ。そのことに考えを巡らせていた時だった。 「──ッ、お嬢様!」  どうした──るにせの口はその言葉を紡ぐことが出来なかった。  セツナが覆い被さり、るにせを押し倒したからだ。  それとほぼ同時に研究所の天井が崩落した。瓦礫の数々が研究所の内部を押し潰してゆく。  大量の土煙がるにせの上を通っていった。痛みはない。セツナが庇っているからだ。 「ごほっ、ごほっ──セツナ! 無事か!」 「私に被害はありません……それよりも、お嬢様は……」 「汝がいたから、吾は大丈夫だ……ありがとう」 「礼に及びません。それがメイドというものです」  と、ズン、と音が響いた。それが崩落の音ではなく、着地音であると理解したるにせの頬を汗が伝う。  黒い影が、土埃の中に立っていた。  それは、一人の女だった。ライダースーツのようなものを身に纏った女が、土埃の中から姿を現す。  目が行くのは、その右腕だ。巨大な(くろがね)が、女の右腕にぶら下がっている。 黒き重機にして銃器。研究所の崩落を可能にした部位だろう。  『それ』を、知っている。華原るにせは知っている。  現行最強の兵器にして、人類に反逆の牙を剥いたAI搭載兵器。  足を踏み出すたびに、機械の音が響く。 「『吸血機』……!」 「イエス」  ガシャ…… 「人を喰らう殺戮兵器……!」 「イエス」  ガシャ。 「おばあ様の作ったモノ……!」 「イエス」  ガシャ! 「イエス。イエス。イエス。その通りです。リトルレディ」  どこまでも無表情に『吸血機』は言った。そこにはただただ単純なアンサーしかない。
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