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「だが──だが! だからと言って!」
るにせはセツナに抱き着いた。彼女がそうしたように。自分がそうされたように。
「────ッ!」
恐怖がないと言えばウソになる。
けれど。それでも。
「吾は──」
『カギってのはよう』
その声は、唐突であった。
粗暴な声が、るにせの脳髄に響く。
『ただ扉を開けるもんじゃあねえ。そのカギは、ただのカギじゃあねえ。可能性のカギだ。ま、難しい話はこの際なしだ。どうだ、お嬢ちゃん。手を貸してやってもいいんだぜ?』
「な、何者だ!」
当然の困惑に、声は答えない。
『弾丸はすでに発射されてやがる。一秒にも満たない時間で、お嬢ちゃんは間違いなく死ぬ。さあ、どうする? 答えは二択だ。生きるか、死ぬか。銃を撃つか、撃たないか──さあ!』
「実質一択ではないか! こ、この、この! ええい、女は度胸! やれるのであろうな!」
『そこはカバラのババアの折り紙つきだ。俺はお前の道を塞ぐものを打ち砕いてやる』
「何者かわからぬ! わからぬが、信用するぞ!」
『いい度胸だ』
るにせは、世界に戻るような感覚を味わった。
そして、研究所に途轍もない衝撃が走る。
天井だった穴からバラバラと瓦礫が降ってきた。
だが、るにせにも、セツナにも怪我は一つもない。
恐る恐る前を見る、るにせ。
そこには、大きな背中があった。
「これは……」
カツン、という靴の音。
チャリ、という金属音。
「目覚ましにしちゃあ手緩いな……空爆くらいしてみたらどうだぁ?」
その声を知っている。華原るにせは知っている。
数瞬前に聞いたばかりの声だ。忘れることなどあるだろうか。
「なぁ、『吸血機』さんよォ!」
その男は、どす黒かった。
血がしみ込んだような革製の拘束衣。金具すらも同色という徹底ぶり。乱雑に伸びた銅線のような髪の合間からは、全てを呑み込むような黒が覗いている。
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