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「な、汝は……」
「あ?」
「なんと、惨い……」
「頭部ぶっ潰すか、心臓抉り取る。吸血機狩りの基本だろぉが」
なんとでもないかのように男はそう言った。
るにせの背中にうすら寒いものが走る。
常識であると、なんの容赦も慈悲もなく吸血機を踏み潰した。
人型であるものを、何のためらいもなく。
「後片付けをしなくちゃあならないな」
血だまりの中、男はそう言った。
頭部のない吸血機をじろりと見、そして。
「目覚めの酒には……フン、質が低いか……」
溢れる血液が、立ち上がった。ずるりと、常識では考えられない動きをする血液。
その血液が男の口の中へと吸い込まれてゆく。
「なんと奇怪な……汝、なにを……」
「食事だ」
「吸血機を……喰ったのか……?」
「吸血機は吸血機を喰らえる……だがこいつはダメだな。ダメダメだ。クソマズイ。ろくな人間を喰っていない証拠だ……飯にありつけるだけありがてえがな」
それは、るにせにとって、あまりにもな言い草だった。
「そいつは、吾の仲間を喰ったのだぞ……!」
「それがどうした。事実は事実だ。味は三流だ。この程度の雑魚相手に喰われるのならたかが知れる」
男はそれが当然であるかのように語る。
「それ以上侮辱をしてみろ……! 吾は吾を抑えきれなくなる……!」
「お嬢様……」
「小鹿のように震えながらよく言うなあ。ええ? ……だが、それだけじゃあ俺は倒せない。俺を、倒せない。戦場に立つ資格をお前は持ちうる。それでようやくスタートラインだ」
にたり。男は笑う。
それは、何かを楽しんでいる笑顔であった。るにせを見、挑発的な態度を取る男。
「汝は言ったな……吾が新たな主人かと……ああ、そうだ。そうだとも。吾は華原るにせ! 華原 都から『鍵』を託されたもの!」
「『鍵』、か……たしかにお前は俺の制御キーを保有している。そうだ、俺はお前に危害を加えられないし、命令通りに動かざるを得ない。業腹だがよぉ……!」
るにせの背中にひやりと冷たいものが走る。
それは殺気だ。主であるべき、人間を平然と殺す気でいる。
「こんな小娘に使役される。ふん、我ながらなんてザマだ」
どっかりと男は座った。
吸血機の残骸が砕けるが、それを気にする様子もなかった。
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