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それに対して、雨宮先輩は今日まで登校すらしていなかった。状況を聞いて今日、現場を見て回っても、それは片付けれたあとの現場だ。
昨日の一限目終了時、二限目がB校舎で、ほとんどの生徒がそうしたように、僕も、現場前で足を止めた。
女子更衣室前の廊下に散乱していた窓ガラスの破片は当然のごとく片付けられ、窓には段ボール箱で応急処置がしてあった。
そして今日、三限目前に現場を確かめると、窓はすでに取り替えられていた。不自然な箇所はない。まるで、窓ガラスなど初めから割れていなかったかのよう。
今日現場に足を運んでも、事件の残骸を目にすることは出来ない。今日に限らず、永遠に出来ない。
雨宮先輩は、情報だけで推理し、ひとつの事実に思い至ったのか。
「榛名くん、推理できたの?」
赤崎先輩の羨望の眼差しが胸を締め付ける。
「……ただの思いつきです」
「そこから始まるんだよ、推理は。君は、窓ガラス粉砕の謎を解き明かした。素晴らしい。僕の後継者誕生だ」
とん、と肩に手を置かれて、
「あとはよろしく」
「奈々葉ちゃん!逃がさないよ」
「チッ。無理か」
「隙あらば逃げようとしない。はい、続き」
僕の言葉を継いだのは、僕を持ち上げるためか。なんだか騙された気分。それに思いつきを利用された不満から、唇が尖る。
そんな僕を見て、雨宮先輩は意地悪そうに笑んだ。その後、促しに応えるように真顔になる。
「小型カメラで撮影した目的は、大矢が食堂の鍵を、撮影者不明として、不特定多数の人物に見せることに他ならない。食堂の絵画の落書き当日に、侵入口を確保した奴がいれば、そいつが犯人だと思い込むからな」
「撮影は、波多野くんに罪をなすり付けるため?」
「そ。そこで重要なのは映像──カメラの発見だ。着替えの最中に発見されたら、映像は事件として警察の手に渡ってしまう。犯人は、そこまで大事にはしたくなかったはずだ。だから廊下の窓ガラスを割って、女子更衣室への侵入者の存在を作った」
「でも。それでもカメラが見つかったら、警察が介入してくるんじゃ」
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