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「どうせあいつのことだ。鍵を開けたのも僕への謎のためだ。本格的な謎作りの前の実験ってところかな」
「でもその日、望月先輩の作品はすり替えられたんですよ。まだ謎が完成してないのに、次の謎を?」
「大矢は後先考えずに行動する性格だから。それに、僕が推理をしないから。だからひとつでも多くと、謎を作ってるんだよ」
雨宮先輩の元に、いったい幾つの謎が持ち込まれたのだろう。伝えても推理をしないから、波多野先輩はまた新たな謎を。
相手にされなくても、今度こそはと考えて。諦めずに何度でも。
波多野先輩は誰よりも煌々と輝く光だ。
「それよりも僕が気になってるのは」
と、雨宮先輩はB校舎に目を転じる。窓が並ぶB校舎。更衣室は黒いカーテンが引かれている。
「鍵を開けた大矢の姿を撮っていたカメラだ」
「女子更衣室から撮られた映像なのよね?」
「断定はできませんが、少なくともその近辺です」
僕は男子生徒だから、当然女子更衣室に立ち入ったことがない。窓からの校舎裏の風景がどのように見えるのか知らない。
カメラの映像は、食堂の窓を斜めから映していた。第一多目的室か、女子更衣室か、技術室か。
「カメラは、女子更衣室から見つかったんだよな?」
「はい」
「なら撮影も、女子更衣室だと想定して話を進めよう」
雨宮先輩が黒いカーテンが引かれた女子更衣室を見る。赤崎先輩も倣うように見る。
カーテンが引かれていても、更衣室は更衣室。直視しづらく、視線を左右に動かすのも不審者のようで、僕は一階と二階の間を見つめた。
「一時十分から十七分の映像が収まってたんだよな」
「はい」
目撃者への確認は推理への過程。赤崎先輩の口許が緩む。
「中途半端な時間だ。カメラを固定して一日中撮影していたわけではなく、十分から撮影し、七分後に止めた人物が室内にいたんだな。そいつは大矢が謎の実験のために食堂の窓の鍵を人目を忍んで開けることを知っていた」
「波多野くんと親しい人?」
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