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手軽に写真や動画撮影ができる機器を保持しているのに、わざわざ別の、小型カメラを購入する理由がない。雨宮先輩がスマートフォンを仕舞う。
「パソコンに繋いで初めて映像確認ができるカメラを使っての撮影は不確かだ。大事な場面をちゃんと撮れてるのかすぐに確認できない」
「そのために何日も繰り返してたんじゃない?」
「繰り返して頭と体に覚えさせても、いざその場面になると不安になるのが人間だ。撮影はできていると一目で分かる機器の方が使いやすいし、安全だ」
「あの……」
食堂の絵画の落書きの野次馬となっている写真を、波多野先輩が持っている。しかしそれは、波多野先輩が撮影した写真ではない。
誰かから転送してもらった写真だ。波多野先輩はその誰かを当然知っている。誰から送られてきたのか、写真でも動画でも一目で分かる。
仮にフリーのメールアドレスで送られてきた写真や動画だとしたら、それらに信憑性はない。誰も、得体の知れない動画を広めようとはしない。
「ふと、思ったんですけど」
B校舎、黒いカーテンが引かれた女子更衣室。カメラが発見された場所。その日、事件はそれだけではない。
「小型カメラでの撮影って、スマートフォンで撮った、その気になれば撮影者が判明してしまう恐れがある危うさを回避するための、曖昧さを求めてなのでは」
「なるほど。小型カメラの撮影なら、確かに撮影者はベールに包まれているな」
「撮影者は秘密でも、映像は公にしたかった」
「だから犯人は、女子更衣室前の窓ガラスを割って、女子更衣室に不審者が侵入したと見せかけて、捜索するよう仕向けた」
あってる、と小首を傾げながらの問いに、僕は肯定できなかった。
僕は、僕の写真を波多野先輩が誰かから転送してもらったのを頼りに、思考した。そして、犯人の思惑に、ふと思い至ったのだ。
僕にはきっかけがあった。現場も目にしている。
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