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「さて。皆さんに集まっていただいたのは他でもありません」 「大袈裟な言い方だなあ。探偵気取りか」 「話の腰を折らないでいただきたいです、三上先輩。あなたにとっては他人事かもしれませんが、偶然、そうなっただけに過ぎないのかもしれないのですよ。それに、同じ部の後輩が被害に遇ったのですから、真剣に耳を傾けるのが常識かと。口を挟むのは疑問だけでお願いします」 三上先輩、と呼ばれた男子生徒は、ばつが悪そうに俯いた。左隣に座っている男子生徒は彼と親しいのか、怒られてやんの、とでも言いたげな笑みを浮かべている。 「皆さんも。静聴していただくのが一番ありがたいのですが」 車座になった美術部員──数えたわけではないが約二十名ほど──の輪の中心に立っている男子生徒が、ぐるりと一同を見回す。 牽制だ、と誰もが理解し、固く口を閉ざした。 「感謝します。では、話を戻させていただいて。皆さんに集まっていただいたのは、二日前、六月十八日の月曜日、美術部員である望月遊莉さんの、制作中の油彩画に悪質な落書きがなされた件についてです」 何人か、あるいは何十人が、一人の女子生徒をいちべつしたり、注視した。 他人の口から改めて被害を口にされたからか、それともまだ傷が癒えていないのか、両手で顔を覆って伏せている。 一人の女子生徒が肩をさすりに行くが、中心の男子生徒は文句を言わなかった。 「望月さんには心苦しいと思いますが、現物があった方が説明しやすいので、今からお持ちします」 少々お待ちを、と男子生徒が隣の部屋に向かうのを、三人の美術部員が「手伝うよ」とついていく。 美術部員が車座になっている教室は、その部の名が示すように、美術室。その隣の部屋は、美術準備室だ。 部員に与えられた絵の具各種やパレット、それの予備、部員が制作中の油彩画水彩画、デッサン等の作品も保管されているらしい。 らしい、と言うのは、僕は入ったことがないからだ。
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