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キャンバスを直視している部員は、落書きを行った者に憤っているからだろう。
精魂込めた作品を汚されたなら、失意の底に沈むか憤怒するのが、美術部員なのか。
「本日は六月二十日、水曜日。望月遊莉さんが出品する予定だったコンテストの締め切りは六月末。ひとつの作品を完成させるのにどのくらいの日数を費やすのか、美術部員でない僕には判然としませんが、十日間で完成させることは、あるいは可能なのでしょうか。どうでしょう?」
「熱意にもよるな」
三上先輩だ。名指しで指名されたわけではないのに、ここは俺の独壇場、とばかりに口が動く。
「俺は主に人物のデッサンで、風景は専門外だが、モデル、構図、色が決まれば、あとは筆を動かすだけだ。筆に迷いが生じなければ、五、六日で描き切れるんじゃね」
どうよ、と左隣の男子生徒に同意を求めたが、首を傾げられていた。納得できないというよりも、油彩画を専門にしてないから分からないといった動作だ。
「そうね。三上くんの言うように筆に迷いが生じなければ十日で完成は不可能というわけではないわ」
僕の目の前に座っている女子生徒だ。彼女の言葉に信憑性を感じたのか、中心の男子生徒は恭しく腰を折る。
「貴重なご意見感謝します、久保部長」
おい俺は、との三上先輩の抗議を無視して、彼は進める。
「十日間で完成は可能。では今からとりくめば、と思う方もいるかもしれませんが、哀しみに打ちひしがれている望月遊莉さんには酷な話です。それに重要なのは、落書きを行った犯人が不明という点。これが解決しない限りは、望月遊莉さんは心置きなく描画に取り組むことができない。ですので、犯人を白日の下に晒す必要があります」
「できんのかよ」
「そのためにお集まりいただいたのです」
犯人を白日の下に。その一言で、美術室に緊張が走る。
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