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二十名ほどの美術部員が、固唾を飲む。そんな一同を見回して、 「重要なのは情報の共有です」 と中心の男子生徒は手を合わせた。 「事件、と呼ぶには大仰かもしれませんが、被害に遭った望月遊莉さんはそのような心境に陥っていらっしゃるかと思いますので、そう呼ばせていただきます。では事件を整理しましょう」 「整理もなにも、二日前望月ちゃんが美術室に来た時に──いや、なんでもない」 几帳面な性格なのか、彼は順序を崩されることを極端に嫌うようだ。冷徹に、三上先輩を睨んでいる。 先輩と呼ぶからには一年か二年、学年が下のはずなのに、臆してる印象がない。 彼は、関係者を美術室に集めて、優位に立っている自負があるのか。美術部員が美術室に集うのは至極当然のことなのに。 「事件を、整理します」 強調するかのように繰り返す。 「事件が発覚したのは二日前、六月十八日の月曜日。六限目の授業が終了するのは午後三時三十分。望月遊莉さんが在籍している二年B組の教室から美術室までは歩いて三分ほど。この時間は僕が実際に歩いて計測した時間ですが、男性と女性では歩幅が異なりますので、多少の誤差はありますが、教室棟と選択教室棟──僕ら生徒の間では教室棟がA校舎、選択教室棟がB校舎と呼ばれており、一度一階に下りてL字の渡り廊下を渡らないと選択教室棟、美術室には来れない構造になっているので、望月遊莉さんが美術室に姿を現すのは午後三時三十三分から、多く見積もっても三十五分辺り」 「走ったらもっと早いんじゃね」 「走る?どこをですか?廊下を?廊下を走ってはならないというのは、小学校入学時からの常識ですよ。それを破れと?」 「いや、そういう意味じゃ」 「真っ先にその可能性を口にしたということは三上先輩、あなたは常日頃から廊下を走ってらっしゃるのですね」 「は、走ってねぇよ」 刺々しく責める口調に必死に反論するが、僕でさえそれが嘘だと見抜けた。 左隣の男子生徒も、数名の美術部員も白々しい彼にどこか呆れている。
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