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六月二十五日、月曜日、午前八時十分。陸上部の朝練の見学はしない僕は、いつも一人、朝のHRに間に合うように八時二十分前後に到着するよう自宅を出ている。 だけど今日は、いつもより早めに登校した。昇降口には向かわずローファーのまま、A校舎をぐるりと回って、小火騒ぎの現場に足を運ぶ。 考えることは同じなのか、波多野くんがいた。火の塊があった箇所を見下ろしている。 ぽっかりと、地面が変色した箇所。校舎に燃え移らなかったのは発見が早かったおかげなのと、校舎から離れていたからだろう。 大惨事には至らなかったが、だからといって決して許される行為ではない。 気配で気付いたのか、首だけ振り向いた。 「相棒やからって真似せんでええよ」 「自分の意思だから」 隣に立って、見下ろす。黒く変色した地面が、金曜日の記憶を呼び起こす。 本が燃えている。職員室でそう告げた時、いの一番に立ち上がったのはやはり、小鳥遊司書教諭だった。 どこだ、と室内に響き渡るほどの尋ねた声に、怒りと悲しみが内包されていて、僕は数瞬、案内するのを躊躇った。 榛名、と担任の先生からの野太い声で我に返る。七、八人の先生が腰を上げていた。 司書教諭は「本」が燃えていることに狼狽えている。他の先生は「二度目」の火の手に狼狽えている。 室内を満たす空気を俊敏に察知し、「こっちです」と火災現場へと走った。廊下を走ることも、上履きのまま土を踏みしめることも咎められない。 いつの間に耳に届き駆け付けたのか、野球部員の姿が現場にあった。B校舎の窓からも、ほとんど全ての窓に顔が貼り付いていた。 開いてる窓がないのは自重したのか、波多野くんや赤崎先輩、部活仲間に止められたからか。 燃え始めならまだしも、燃えているのは紙の束。僕の、往復の僅かな時間にも火の勢いは強まり、小火と呼んでいいのか迷うほど、燃え盛っていた。火の粉も、紙の切れ端も舞っている。
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