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目を合わせようとしない三上先輩に諦念したのか、中心の男子生徒は「まあいいでしょう」と溜め息を吐いた。
「今は三上先輩の罪をどうこう咎める場面ではありません。一度忘れます」
目を閉じ、開いた。スイッチを切り替えたのか、冷静な、それでいて真摯さがまとう。
「望月遊莉さんが美術室を訪れるのは遅くても午後三時三十五分。犯人も同じ条件だとしたら、五分以内に美術室を訪れ、望月遊莉さんの油彩画に落書きを行い、望月遊莉さんが訪れる前に去るのは不可能と言っていいでしょう。望月遊莉さんではなく、他の美術部員が望月遊莉さんよりも早く訪れる可能性もあるのですから。それに、落書きが一ヶ所だけならまだしも、多岐にわたり多彩ですからね。放課後に犯行を行うのは不可能──と結論付けるのは、早計なのです」
焦らしている。彼は、この状況を楽しんでいる。
優越感か。じりじりと犯人を袋小路に追い込んでいると実感しているのか。
「通常通りの放課後なら犯行は不可能でしょうが、二日前の六月十八日なら可能でした」
「食堂の!」
「ええ。そうです」
三上先輩ではない。疑問ではないのに割り込みを許したのは、誰かが割り込むのを読んでいたからだろう。
それとも、割り込むように誘導したのか。
彼の独壇場。僕達は、手のひらの上で踊らされているのだ。
「二日前の六月十八日、望月遊莉さんの制作中の油彩画落書きだけでなく、もうひとつ落書き事件は起こっておりました。それが、食堂に飾られている絵画への落書きです」
僕の昼食は決まって食堂だが、絵画が飾られているのを目に止めたのは、入学してから初めての食堂デビューの日だけだ。
他の一年生がそうであるように、物珍しげに足を止めて眺めたが、それはほんの数秒で、その日だけだ。翌日からは風景の一部となって、気にも留めなかった。
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