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「『そして誰もいなくなった』!?」
「真実さん、駄目!」
おそらく、執念だろう。司書教諭は、火の塊のなかから題名を読み取った。
それは間違いなく荒らされた図書室から紛失した蔵書で、赤崎先輩と波多野くんが身を挺して止めなければ猛進していた。
僕は、一歩も動けなかった。
「離れろ!?」
野球部員や僕を押し退け、男性の先生二人が消火器の噴射口を小火に向けた。勢いよく、消火剤が噴射される。
二本の消火器だ。たちどころに辺り一面、白く染まる。迅速な動きだった。
白煙が晴れた視界に、火の手はなかった。火の塊があった場所には、燃え尽きた紙の束。三冊だと、かろうじて確認できる。
「ああ……あああー!」
司書教諭が崩れ落ちた。赤崎先輩もかける言葉が見つからないのか、肩に手を添えてはいるが、その顔は沈痛そうだ。
「消防に連絡してくれた人は?」
「どうでしょう。職員室に残った先生がしてくれてるとは思いますが。訊いてきます」
若い先生の後ろ姿を見送った先生二人の、小声の会話が耳に入ってくる。
「しかし参りましたね。立て続けに二回ですよ」
「前は、七時頃でしたから。今日は四時前ですよ」
「時間が違うからといって、同一人物の犯行、という線は消えませんよ。模倣犯の愉快犯なら、今の状況がまさしく快感でしょうな」
「目撃者が多いです。校長はどう説明する気でしょうか」
「分かりませんよ。──ほら!用がないなら部活に戻るか帰宅しろ。君達もだぞ!」
野球部員、そしてB校舎の生徒に向けて声を張り上げた。指示を受けたからか、それとも小火が鎮火して興味をなくしたからか、ぞろぞろと気怠げに第一グラウンドへと帰っていく野球部員。
「──ん!ちょっ……」
「俺らも行くで。あとは赤崎に任せたらええ。残っても面倒やし。第一発見者は疑われるかもしれん」
耳元でそう囁かれ、僕は抵抗を止めた。
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