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肩を組まれ無理矢理歩かされ、火災現場から離れていった。 その後、消防車が到着したことは知っているが、火は鎮火しているからか、十分もかからずに校内から去って行った。 小火発生は、六月二十二日金曜日の、午後四時前。悪意ある者の手によって荒らされた図書室から紛失した蔵書が校舎裏で焼却された事態を学校側は重く見たのか、午後四時三十分。一人の例外もなく、全校生徒の帰宅を命じた。 四時三十分以降、土曜日、日曜日。そして、今日。どのような調査が行われたのか詳らかではないが、小火騒ぎは二度目なのに、特に立ち入りを禁止するフェンスで囲まれているわけではない。 波多野くんの声で、現実へと戻ってくる。 「なあ、知ってる?」 「続報なら知らない。今来たばっかだから」 「今の『知ってる?』は聞き出そうとした意味やなくて言葉通りの意味や。でも来たばっかなら知らんな」 「要領を得ない。結局なにが言いたいの」 「俺も又聞きやけど。朝練中の野球部員の部室から煙草とライターが見つかったらしいで」 「煙草と、ライター……」 未成年の喫煙は法律で禁じられている。校内で喫煙していたのなら停学、あるいは退学だ。 そんな危険を冒してまで吸いたいほど魅力的だとは思えない。 「それってつまり、小火騒ぎは野球部の誰かの仕業ってこと?」 「そやろな。新品やのうて本数は減ってたらしいし、百円ライターのオイルも半分ぐらいやて。日常的に吸ってたんちゃう」 「ここで?B校舎には人目があるのに」 「ずっと誰かが窓から覗いてるわけやない」 「それはそうだけど」 確実に、B校舎に人の目がある。その状況下で喫煙するのは、露見するかもしれないスリルすら味わっていたのだろうか。 金曜日、いつの間にか野次馬となっていた野球部員のなかに、喫煙者がいたのだろうか。
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