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「そや分からんけど」 「……なに?」 「ホンマ乗り気やな。探偵の相棒なんかその場しのぎの冗談やで」 「そのつもりで動いたことなんて一度もないよ。発見したのは僕だから、その後どうなってるのか知りたいだけ。君こそ乗り気じゃん」 「俺は探偵やからな。推理はせえへんけど情報を多く集めるのが使命やねん」 「使命……」 重要な責務が、使命。高校生に与えられるほど、身近な言葉ではない。それとも、彼がただ単に「使命感」に燃えているだけか。 「代わり、なんだよね。探偵の」 「そやけど?」 「それは、実際の探偵が動けないから?例えば、病室探偵みたいな」 「強いて上げるなら引きこもりや。引きこもり探偵」 「引きこもり……」 軽い口調なのに、重い。 中学一年の時、クラスメートが一人、引きこもりだった。不登校だった。 毎朝登校しても、そこは空席のままで、そのまま授業が進められ、終わる。 何故登校してこないのか、担任も知らないまま一日一日が過ぎ、気付けばクラスで彼のことを心配してるのは、彼の数名の友人だけだった。 休み時間は常に消沈していて、「様子を見に行こう」と毎日のように相談していたのを、聞くともなしに聞いていた。 結果は次の日、空席が教えてくれた。それでも友人達は心が折れることがなく何日も、何週間も続けていたが、ある日ふと、相談を聞かなくなった。 心からの笑顔が見られるようになった。 席は、空席のまま。挫折した、とは思えず、初めからいなかったかのような振る舞いを、誰も責めはしなかった。 その席は空席なのが日常なのだと、いつしかクラスの共通認識になる。皆、勉強に部活に忙しかったのだ。 転校した、と知ったのは二学期の終わりだったか三学期の始まりだったか。 クラスメートは誰も、引きこもりで不登校の生徒を救えなかった。だけど、それに負い目を感じてるクラスメートはいなかった。
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