40人が本棚に入れています
本棚に追加
「そや分からんけど」
「……なに?」
「ホンマ乗り気やな。探偵の相棒なんかその場しのぎの冗談やで」
「そのつもりで動いたことなんて一度もないよ。発見したのは僕だから、その後どうなってるのか知りたいだけ。君こそ乗り気じゃん」
「俺は探偵やからな。推理はせえへんけど情報を多く集めるのが使命やねん」
「使命……」
重要な責務が、使命。高校生に与えられるほど、身近な言葉ではない。それとも、彼がただ単に「使命感」に燃えているだけか。
「代わり、なんだよね。探偵の」
「そやけど?」
「それは、実際の探偵が動けないから?例えば、病室探偵みたいな」
「強いて上げるなら引きこもりや。引きこもり探偵」
「引きこもり……」
軽い口調なのに、重い。
中学一年の時、クラスメートが一人、引きこもりだった。不登校だった。
毎朝登校しても、そこは空席のままで、そのまま授業が進められ、終わる。
何故登校してこないのか、担任も知らないまま一日一日が過ぎ、気付けばクラスで彼のことを心配してるのは、彼の数名の友人だけだった。
休み時間は常に消沈していて、「様子を見に行こう」と毎日のように相談していたのを、聞くともなしに聞いていた。
結果は次の日、空席が教えてくれた。それでも友人達は心が折れることがなく何日も、何週間も続けていたが、ある日ふと、相談を聞かなくなった。
心からの笑顔が見られるようになった。
席は、空席のまま。挫折した、とは思えず、初めからいなかったかのような振る舞いを、誰も責めはしなかった。
その席は空席なのが日常なのだと、いつしかクラスの共通認識になる。皆、勉強に部活に忙しかったのだ。
転校した、と知ったのは二学期の終わりだったか三学期の始まりだったか。
クラスメートは誰も、引きこもりで不登校の生徒を救えなかった。だけど、それに負い目を感じてるクラスメートはいなかった。
最初のコメントを投稿しよう!