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不登校も引きこもりも、幼い僕らに対処できる問題じゃない。 それは、高校一年生になった今も変わらない。 「それは、大変だね」 二年生の波多野くんが抱えているのだから、引きこもりの生徒も二年生だろう。一年生の僕が関与していい問題じゃない。 棒読みにならないように気を付けつつ、他人事だと言外に含ませた。 励ましの言葉と受け取ったのか、波多野くんが笑む。 「あいつを笑わすためなら、俺はいくらでも我慢できる」 「それって──」 奈々葉さんって女性生徒のこと?と訊こうとした言葉は、予鈴のチャイムがかき消す。 「やばっ」 僕と波多野くんの声が重なった。 僕がそれを知ったのは昼食中だった。絵画が飾られてない殺風景な食堂で、代わり映えしない二人との食事中の会話が、その話題だった。 提供したのは、森川。クラスの違う中学校の同級生が美術部で、廊下ですれ違った時の落ち込み方が尋常ではなく、問い質したらしい。 森川の同級生、松井くんの証言によると、六月十八日月曜日、望月さんの油彩画落書き以外にも、美術室で事件は起こっていた。 美術部員が使用する美術道具、キャンバス、イーゼル、パレット、各種絵の具類は全て、美術準備室に保管されている。 部員に、個々に与えられたのは絵の具とパレットだけ。パレットは、個々によって使用方法が違う。 制作中でも部活終了となれば丸洗いする部員もいれば、色を忘れないため、または偶然生まれた色を再度使いたいからと、制作終了まで洗わない部員もいる。 色の大事さは、美術部員が一番よく知っている。洗わないからと、ズボラだ、美術部の質が落ちる、などと咎める部員は一人もいない。 洗う、洗わないは本人の自由、好みの問題で、美術部員準備室には色が付着したパレットが三分の一ほど存在する。
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