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顧問が別のパレットを差し出しても、「これじゃない!?」と弾き飛ばすほど。
松井くん曰く、芳田先輩の作品は全体像が完成し、あとは微調整を残すのみだった。
独創的な、偶然生まれた色を全体を壊さないように、且つ作品に命を吹き込むように足していくのみ。
新品のパレットに色はない。九割方描画した作品は、永遠に完成しない。
コンテストに出品予定だった。完成していない油彩画を出品するほど、芳田先輩は美術に甘くない。
泣き喚きながらも、近くの部員が使用していた絵の具を、チューブごと作品へと投げつけた。
落書きされた油彩画と、自らが落書きした油彩画。コンテストに出品予定だった甲乙つけがたい部員の油彩画は二枚とも、幻と消えた。
金曜日の放課後は小火騒ぎがあった日で、部活動は全て中止で、全校生徒は帰宅した。
居心地の悪い美術部から解放され安堵した松井くんだが、土日を挟んだから立ち直ってるだろうと休み時間、二年B組の教室の、芳田先輩の様子を覗き見たあとに、森川に呼び止められた。
「というわけ。どうにかして松井を立ち直らしたいんだが、いい案ない?」
「いや無理だろ」
一蹴した桐山に同調するように、首を縦に振る。
「そいつを立ち直らすには芳田って先輩の機嫌を直すしかないが、それは不可能だし。時間が解決するのを待つしかない」
「それまで険悪で、居心地の悪いまま過ごせって?この薄情者ども」
「それ、僕が森川に言った気がする」
「つまり、人間は誰もが薄情だったってこと」
おしまい、と完結を示して絵本を閉じるかのような軽い口調に、森川が顔をしかめる。
「責めんなよ。それはもう美術部の不運としか言いようがない。『四つの署名』が呪われた本なら、美術部は呪われた部活だったんだよ」
「アバウトにまとめんな。犯人が不明なだけでどっちも人の手によるものだろ」
「……」
同一犯の犯行だ、と暴露したい。
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